海辺のカフカ 上巻
新潮社
村上春樹
15歳になったら僕は二度と戻らない旅に出た。
村上春樹書き下ろし最新作。
データ1
彼は長身で、寡黙だった。
金属を混ぜ込んだような強い筋肉を持ち、
世界でいちばんタフな15歳の少年になりたいと思っていた。
データ2
東京都中野区にもしある日、空から突然2000匹の生きた魚が
路上に落ちてきたら、人々は驚かないわけにはいかないだろう。
データ3
多くのネコたちは名前を持たない。
多くのネコたちは言葉をもたない。
しかしそこには言葉を持たず、名前を持たない悪夢がある。
僕はその短い記事を読み、大島さんに返す。新聞記事は事件の原因に
ついていくつかの憶測をおこなっているが、どれも説得性に欠けている。
警察は盗難あるいはいたずらの可能性もあるとして投査をおこなっている。
気象庁は、魚が空から降ってくるような気象的要素はまったくなかったと述べている。
農林水産省の広報担当者は、今の時点ではまだコメントを出していない。
「この出来事になにか心当たりはある?」と大島さんはたずねる。
僕は首を振る。心当たりはまったくない。
「君のお父さんが殺された翌日、その現場のすぐ近くに、イワシとアジが
2000匹空から降ってきた。これはきっと偶然の一致なんだろうね」
「たぶん」
「そして新聞には、東名高速道路の富士川サービスエリアで、同じ日の深夜に
大量のヒルが空から降ってきたという記事が載っていた。
狭い場所に局地的に降ったんだ。そのおかげでいくつか軽い衝突事故が起こった。
かなり大きなヒルだったらしい。どうしてヒルの大群が空から雨みたいに
ばらばらと降ってきたのか、誰にも説明できない。
風もほとんどない、晴れた夜だった。それについても心当たりはない?」
僕は首を振る。
大島さんは言う、そして新聞をかさねて折り畳む。
「というわけでここのところ世間では、奇妙なこと、説明のつかないことが
立てつづけに起こつている。もちろんそこにはつながりはないかもしれない。
ただの偶然の一致かもしれない。
でも僕にはどうも気になるんだ。なにかがひっかかる」
(海辺のカフカ・本文「第21章」より)
海辺のカフカ 上巻 新潮社 村上春樹
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