漱石とその時代
第一部
新潮社
江藤淳
ISBN4106001268
三十年に及ぶライフワーク!!
漱石の隠れた実像。
慶応三年正月の誕生から、明治三十三年夏の五高教授時代まで。
漱石はいわば新時代の只中に捨てられた子であった。
「幼稚のときより、能く学びて、賢きものとなり、必無用の人と、
なることなかれ」という「小学読本」巻一冒頭の一節はいつも彼の
不安な存在を脅かしていた。私はこのような漱石の隠れた実像を
掘りおこしながら、彼が出逢った明治という巨大な過渡期の姿を
つとめて精細に喚起しようとした。
第一部は慶応三年正月のその誕生から、明治三十三年夏の五高
教授時代にいたる。
著者
数年前、江藤氏が、この伝記のために、ロンドンに行って、漱石の下宿
した跡を訪ねるときいて、その情熱に驚きながら、そこまで調べることが
必要かに、幾分の疑問を抱きましが、読んでみて成程と思いました。
氏はここでロンドンに照らして東京を、西洋に照らして日本を、つまり
作家と「その時代」を描きたかったので、そのために生きたロンドンが
必要だったのです。
これは漱石伝として、かって書かれたもっとも精細なものですが、同時に
単なる一作家のの伝記ではありません。筆者は漱石に対する等量の愛情を
こめて、明治という時代と東京都いう都会を描き、彼によって近代日本の
精神の劇を語ろうとしています。この末聞の野望が、周到な調査と配慮、
鋭い観察と表裏するこまやかな敬意によって実現されている点に、この
書物の独自の魅力があります。
漱石は、江藤氏によって歴史のなかから蘇り、江藤氏は漱石によって現代
に堪えていきる魂の自覚をひきだしています。
この大著を支える歓びの歌に耳を傾ける者は、ほかで得られぬ何かを
把むでしょう。
中村光夫
筆者紹介
江藤淳(エトウ ジュン)
昭和8年東京生まれ。慶応義塾大学文学部英文科卒。
昭和31年、従来の漱石感を覆す、鮮やかな評論『夏目漱石』で華々しくデビュー。
鋭い批評眼と明快な文体で、次々に評論を発表した。
昭和37年『小林秀雄』で新潮社文学賞を受賞。同45年『漱石とその時代』
(第一部・第二部)は菊池寛賞、野間文芸賞を受賞した。
同50年『海は蘇る』で文藝春秋読者賞。同51年には、日本芸術院賞を
受賞した。その後、慶応義塾大学教授。東京工業大学名誉教授。
日本芸術院会員。『アメリカと私』『成熟と喪失−“母の崩壊”』
『一族再会』『荷風散策ー紅茶のあとさきー』など、多くの著書がある。
1900円(税別)