スローフードな人生!   スローフードな人生!
イタリアの食卓から始まる
新潮社
島村奈津

食いしん坊集まれ!
そしてまずは、この本からはじめよう!

イタリアの食いしん坊が、ついに立ち上がった。
集まって出来たのが、「スローフード協会」。会員は世界に7万人。
ファーストフードを超える愉快で深遠な
食思想=「スローフード精神」こそが日本を救う。

一九八六年の夏の蒸し暑い晩のこと、イタリアのとある小さな田舎町で、
偉大なる革命運動が産声をあげた。名づけてスローフード運動。
 スローフード運動・…=? なんだ、ファーストフードの反対か。
きっとファーストフードの不買運動か何かだろうと、
どうか早合点しないでいただきたい。
それは、実際、取材をしてみた私でさえ、予想だにしなかったほど
深遠な哲学を秘めたムーブメントだったのだから。
それにしても、どこか間が抜けていて、真面目なのか、
はたまたふざけているのか定かでない。
スローフードという言葉を初めて耳にした時、
私の頭に浮かんだのもまた、次のような光景だった。
 イタリアのトスカーナかどこかの田園地帯。
どこまでも連なる緑の丘を背にして農家風の大衆食堂の庭先に、
丸い腹を抱えた初老の紳士たちが腰かけている。
長テーブルにはまっ白なクロス、自家製の赤ワインがグラスに注がれる。
 そばでは、八十になる頑固なトラットリアの婆さまが、大きな手で、
手垢もろとも丹精こめて捏ねあげた平たいパスタをソースにからめている。
ソースは、地元の猟師が抱えてきた野兎を使った特製で、
裏庭で作った野菜を付け合わせにしたメインディッシュは、
赤ワインをふんだんに使って一日ことこと煮込んだ牛の骨付さすね肉。
 やがて、婆さまは、奥から姿を現すと、まるで息子のような紳士たちが、
それらをすっかり平らげたテーブルを満足げに見渡す。
その手には、近くの農家で作られた青かびのチーズ、ゴルゴンゾーラを
たずさえている。
そして、おしまいに運ばれてくるデザートは、これも自慢のぼそぼそした
固いアーモンド・クッキー、これを浸していただくのが、
今は亡き爺さまが手がけた甘いワイン、ヴィン・サント。
こうしてエスプレッソに行き着くまで、紳士たちは、
ざっと五時間はかけて昼食をする・・・。
とまあ、文字通りゆっくり食べている頑固なイタリア人の姿だった。
(「プロローグ ファーストライフ症候群からの脱出」より)

我々の世紀は、工業文明の下に発達し、まず最初に自動車を
発明することで、生活のかたちを作ってきました。
我々みんなが、スピードに束縛され、そして、我々の慣習を狂わせ、
家庭のプライバシーまで侵害し、”ファーストフード〃を食することを強いる
”ファーストライフ”という共通のウィルスに感染しているのです。
いまこそ、ホモ・サピエンスは、この滅亡の危機へ向けて
突き進もうとするスピードから、自らを解放しなければなりません。
我々の穏やかな悦びを守るための唯一の道は、
このファーストライフという全世界的狂気に立ち向かうことです。
この狂乱を、効率と履き違えるやからに対し、
私たちは感性の悦びと、ゆっくりといつまでも持続する楽しみを
保証する適量のワクチンを推奨するものであります。
我々の反撃は、”スローフードな食卓”から始めるべきでありましょう。
ぜひ、郷土料理の風味と豊かさを再発見し、かつファーストフードの
没個性化を無効にしようではありませんか。
生産性の名の下に、ファーストフードは、私たちの生き方を変え、
環境と我々を取り巻く景色を脅かしているのです。
ならば、スローフードこそは、今唯一の、そして真の前衛的回答なのです。
真の文化は、趣向の貧困化ではなく、成長にこそあり、
経験と知識との国際的交流によつて准進することができるでしょう。
 スローフードは、より良い未来を約束します。
 スローフードは、シンボルであるカタツムリのように、
この遅々たる歩みを、国際運動へと押し進めるために、
多くの支持者たちを広く募るものであります。
(「悦楽の保持と権利のための国際運動」より)

目次
プロローグ ファーストライフ症候群からの脱出
第一章 スローフード協会とは何者か
第二章 ローマ人の言い種
第三章 スローバールを目指せ!
第四章 バローロと村おこし
第五章 森の錬金術師
第六章 旅と空腹とボルシチ
第七章 農村への帰還
第八章 子供たちは大丈夫?
第九章 かたつむりな生活
第十章 迫りくる均質化の波
エピローグ 偉大なる長老は嘆く
あとがき

1600円(税別)
スローフードな人生! イタリアの食卓から始まる 新潮社 島村奈津 単価 1,600円 購入数

備考

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