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伝説のやくざボンノ
幻冬舎アウトロー文庫
正延哲士
ヤクザ界のスーパースター菅谷政雄、通称ボンノ。
若いヤクザは彼の優れた美的感覚と人間的魅力に憧れ、
有名映画俳優も彼から影響を受けた。
山口組の全国展開に尽くし誰からも実力者と思われていた彼が、
突然絶縁処分を受けた理由とは?自由奔放な性格のせいか、
それとも権力争いの結果か・・・・・・。
今もヤクザ史に燦然と輝く男の伝説のモニュメント。
「どないしても、警察へ連れていくゆうんやったら、此処で死んでまうど」
と怒鳴った。
「室内を調べさせてもらうで」
「勝手にせんかい」
見舞いの果物や花が一杯に祢られた室内には、着替えの服や下着や
暇潰しに読んでいる雑誌しか無いのに検査はしつこかった。
「何んもあらへんやろが」
「ベッドの下も、ちょっと調べさせてもらうで」
「ええ加減にせんかい」と、披は怒号した。
糖尿病のせいもあって、普投よりも気短くなっている。
「佐々木環という金融業者から、恐喝された訴えが出とる。覚えがあるやろ」
と、刑事の一人が尋ねた。
「阿呆な」。ボンノは、刑事を睨みつけた。
「わいのした事は、人助けやないかい」
「どうか知らんが、警察へ被害届が出とんのじや」
「佐々木が被害者やと、阿呆ぬかせ。おい、佐々木環いうたらな、
大映の永田雅一社長名義で額面四千万円の手形パクって、
懲役三年六カ月の実刑判決を受け保釈中の男やないかい。
そいつが、辰巳守というわしの知り合いの会社から手形をパクったのを、
取り返してやっただけやないかい」
「佐々木は、ちゃんと割引して金は辰巳守に渡すつもりやったというとる。
それを、殺すいうて脅し取られたいうとるんじゃ」
「そんな事いうかい」。ボンノは、顔を紅潮させ激怒した。
「わいは病人やど。ええ加減にせんかい、ボケ。人権問題やないか、おお」
彼は猛烈に抗議を繰り返し、血圧が上がって医師から注意された。
石浜信太郎院長が、病状を説明した。それによると、尿道痛のおそれもあり、
とても収監に耐えられる状態ではないといった。
警察にも、逮捕勾留は無理な病状だと判り、その日は在院のまま身柄を
拘束し臨床の取調べだけで帰っていった。
刑事の尋問に答えながら、ボンノは事件の経過を思い出していた。
辰巳守の応接室で、佐々木を脅す場面へ行ったのは事実だが時間は短かった。
浅田が、
「ボンノは、怖い男やど。怒らせたら何するかわからへんぞ」
と言った時、彼も、
「佐々木よ。わしらが話しとるんや往生せんかい」
と言ったのは覚えている。決して大声ではなかった。
他の者が大声で怒鳴ったりすると、むしろ彼はたしなめた方である。
その方が、もつと棲味がでる。
佐々木も裏社会を生きている人間だから、国際ギャング団のボスだった
ボンノの悪名は聞いている。ボンノがじっと見つめると佐々木は日を逸らした。
「手形は拘収します」
(「第二章 壊滅作戦」より)
目次
序章
一章 ドンとボス
二章 壊滅作戦
三章 絶縁
四章 セントルイス・ブルース
五章 府中刑務所
六章 男の墓標
686円(税別)
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