|
大黒屋光太夫
上巻
毎日新聞社
吉村昭
ISBN 4620106658
若き水主・磯吉の人間臭のにじみ出た生々しい陳述記録をもとに紡ぎだされた
まったく新しい光太夫たちの漂流譚。
絶望的な状況下にも希望を捨てず、ひたむきに闘いつづけた男の感動の物語!!
磯吉が泣いてすがりつくエレナを振り切って光太夫たちと行を共にしたのは、
尋常の努力ではなかったのだろう。磯吉をカムチャッカに残さずにこの地まで
連れてこられたことを、光太夫は幸いだと思った。
「一緒に梅の花咲く故郷へもどろう」
光太夫は、眼をうるませて言った。磯吉は、涙ぐんでうなずいていた。
(本文より)
白子浦
羽織、袴をつけた光太夫は、伊勢国白子浦(現三重県鈴鹿市白子町)
の砂浜に立って海に眼をむけていた。
砂浜は北にむかって長くのび、松の林が砂浜とともに遠くつづいている。
文字通りの白砂青松で、これほど美しい海浜を他の地で眼にしたことはなく、
この地を故郷としているのを誇りに思っている。
白子浦は、堀切川の河口にある港で、海との間に細長い砂州があって入江を
形づくっている。当然のことながら水深は浅く、廻船は、入江に入ることはできず、
砂州の外の海に停泊しなければならない。港の機能としては好ましくないが、
それにもかかわらず海には多くの廻船が碇をおろしていて、その中には光太夫が
沖船頭をつとめる一見諫右衛門の持船である千石積みの「神昌丸」もうかんでいる。
伊勢街道ぞいの白子浦は、地理的条件から伊勢湾屈指の港町として古くから栄え、
本能寺の変の折に徳川家康があやうく海にのがれた地しとても知られている。
(本文白子浦より)
目次
大黒屋光太夫 上巻
白子浦
漂流
孤島
流転
混血児
長い旅
庄蔵
漂流民の宿命
大黒屋光太夫 上 毎日新聞社 吉村昭
1500円(税別)
|