|
大黒屋光太夫
下
毎日新聞社
吉村昭
ISBN 4620106666
十年に及ぶ異国での過酷な日々。
ロシア政府の方針を変更させ、
日本への帰国をなし遂げた光太夫の不屈の意思。
“書き終えるまで死にたくない、と何度も思った”
吉村歴史文学、不滅の金字塔。筆者渾身の漂流記小説の集大成!!!
■漂流に見た人間劇
二十代の頃から私は江戸時代に頻発した漂流事故に興味をいだき、
小説を書くようになってから関心はさらにつのり、これまで漂流に関した
小説を五冊も書いてきた。その折々に集めた史料を背に、
私はゆったりとした気分で書くことをつづけた。小説を書く時の常だが、
私は光太夫、磯吉と一身同体となって筆を進めた。
かれらとともに憤り、泣き、そして笑った。
この小説を書く間、死にたくない、と何度か思い、どうしても書き終えたいと願った。
それが果たせたことに、満ちたりた思いである。
「毎日新聞夕刊大黒屋光太夫ー連載を終えて」より
願書
キリロから時折り使いの者がきて、一同そろって家に招待された。
光太夫たちが行くと、夫人がととのえたさまざまな料理や酒、煙草を出して歓待してくれた。
キリロは、日本の政治、経済、街道、開運のことなどをたずね、ことに金鉱について熱心に
質問した。夫人は芝居に興味をいだき、光太夫は携行していた浄瑠璃本をしめしたりして、
役者、芝居小屋について説明した。光太夫は、日本語学校のことを話題にした。
「ナゼ必要ナノデスカ」
という問に、キリロは、光太夫が推測していることとほぼ同様の答えをした。
日本はオランダと中国の二国のみに交易を許しているが、
ロシア皇帝は日本との経済交流を望んでいる。
冬季に凍結することのない日本の港は魅力があり、それらの港にロシア船が
自由に出入りすることができれば、ロシアの海運は大発展をとげる。「ソレニ、金、銀ダ」
キリロは、鉱物学者であるだけに強い関心をいだいていた。
(本文願書より)
大黒屋光太夫 下 毎日新聞社 吉村昭
1500円(税別)
|